易経入門

「易経」――宇宙時空を超える学問

  

一.「易経」の時空の概念

「易経」は、古代中国人が宇宙自然と天候を観察しながら、宇宙の運行の規律の理に従って、創られた膨大な学問体系であり、古代中国人の素朴的な宇宙観を伝えたものだ。

紀元前2300年ころ、尸子(しし)[1]は宇宙について、「上下四方曰宇、古往今来曰宙」(上下四方の空間は宇といい、古往今来の時間は宙という)と定義した。ということは、宇宙は時間と空間で構成され、時間の延長とともに、空間も無限に延長していく。この学説は、すでに現代天文学で証明されている。

宇宙の諸星体はそれぞれの軌道に沿って、永遠にやまずに運行している。これは宇宙自然の根本的な、永久不変の規則である。「易経」では、「不易」という。この規則は、宇宙が誕生してから、発展し続けてきた約150億年の中で形成された規律であり、宇宙のルールである。このルールは人間社会にも通用している。

但し、このルールは永久不変ではない。宇宙のこの規律は、時間とともに少しずつ変化している。天体に数えきれない恒星と惑星などの星体は、互いに様々な複雑な力学関係により、運行しながら、少しずつ変化していく。これは「易経」の「変易」の理論である。「変易」というのは、変更、変革である。「易経」は変革を提唱し、人間社会を変革への応対を指導してくれる。「易経・革卦」は曰く:「改命、吉」。一つの卦の第四爻は、「多惧」の位置である。革卦の四爻は、陽爻は陰の位に位置しているので、不当位である。こんな時に、時代に順応し合って、変革を行えば、吉になるのだ。「窮則変、変則通、通則久」(「易経・系辞伝[2]下」)(翻訳:物事の発展は極めになると、変化をしないといけない。変化すると、物事の発展を阻まず、末永く発展できるのだ。)

「易経」はこのような宇宙の不変と変化の弁証関係を解け、その理に基づいて、いかに簡単かつ効率的に物事を解決する方法を見つけて、方法論としてまとめた。これは「易経」の「簡易」の理論である。「易」の文字は、容易、簡単の意味もある。「易経」は最終的に、物事を簡単に還元し、いかに簡単かつ有効な方法を使って、物事を成功させることを指導してくれる学問である。「易経」は云う:「匪夷所思」。要するに、複雑なことは、その根本的な問題点を捉えれば、簡単に解けるということである。

したがって、「易經」は、宇宙の生成と発展、運行の規律を研究して、この宇宙の不変の表象から、変化の規律に基づいて、物事を解決する方法を人間社会に取り入れた学問体系である。

 「乾卦・彖伝[3]」は云う:「大明終始、六位時成、時乗六龍以御天」(翻訳:太陽の光明は毎日やまずに大地を照らす、六つの爻(こう)は宇宙の時空の変化に応じて、それぞれの位置が順序が形成される。六つの爻は六頭の龍を比喩し、六頭の龍は青空で自由自在に飛び舞いているようにして、宇宙天体の運行をコントロールする)。位は空間を表す、時は時間のことである。空間の位は時間の変化によって定められる。時間の変化とともに、位も変わっていくという自然の規律を開示する。これは宇宙のルールであり、自然界の最大の智慧である。

  時間と空間の転換について、易学では、具体的にどのようになっているかについて、先天八卦と後天八卦の図で説明してみよう。

二.先天八卦と後天八卦はどんな世界を反映したのか

 「易経」は、象・数・理・占で構成している。象と数は、符号システムであり、八卦の図として、直観的な物事の変化発展の過程を表した。哲学的な分野からいうと、唯心論的な考えである。理とは、八卦の象と数をロジック的な表象として、物事の変化を分析する過程であり、いわゆる物理的唯物弁証論(変革を察し、弁証的な考えにより、物事に対する応対法を作りだす方法)の考えにあたる。占とは、唯心論と唯物論をまとめ、時間と空間の中で、物事の生成、発展の過程を表した推理である。

易経は中国の先祖は宇宙に対する研究の結果である。この学問体系の最もの基礎は先天八卦と後天八卦の二つの図である。次に、先天八卦と後天八卦を用いて、易経は宇宙との関係を述べよう。

「天地定位、山澤通気、雷風相博、水火不相射」(「説卦伝」[4])とは、八卦は両々相対していて、合わせて四組がある。乾卦と坤卦を見ると、乾卦の三爻は皆陽爻で、坤卦の三爻は皆陰爻である。磁石の異極は引き合い,同極は退け合うという性質と同じように、陽爻と陰爻の間は互いに引き合うのに対して、陽爻と陽爻、陰爻と陰爻の間は互いに退け合う関係なので、乾卦と坤卦は引き合う関係で、向心力が働くのである。

坎卦と離卦を見ると、坎卦の初爻は陰爻、離卦の初爻は陽爻で、引き合う関係である。坎卦の二爻は陽爻、離卦の二爻は陰爻で、引き合う関係である。坎卦の三爻は陰爻、離卦の三爻は陽爻で、引き合う関係であるので、向心力が働くのである。

兌卦と艮卦、震卦と巽卦の二組も同じように互いに引き合う関係で、向心力が働くので、四組八卦、二十四爻は、皆の力関係は互いに吸引しあうので、非常に安定している状態である。(図1)

以上の分析によると、先天八卦図は宇宙の相対的な対称平衡の統一状態を反映した。八卦間の向心力が働くことにより、宇宙間の諸天体はこのような安定した状態の中で、互いに作用しながら、運行して発展しているモデル図であり、立体的な宇宙空間のモデルである。

後天八卦は、周文王と息子の周公は先天八卦図を元にして作った図である。

まず南北向を見てみると、坎卦と離卦は向き合っている、坎卦の初爻は陰爻で、離卦の初爻は陽爻なので、互いに引き合う力関係である。坎卦の二爻と離卦の二爻は、陽陰が違うので、引き合う力関係である。坎卦の三爻と離卦の三爻も陰陽が違うので、引き合う関係なので、坎卦と離卦の間は向心力が働くのである。東方の震卦と西方の兌卦を見てみると、震卦の初爻は陽爻、兌卦の初爻は陽爻で、退け合う関係。震卦の二爻は陰爻、兌卦の二爻は陰爻、引き合う関係である。震卦の三爻は陰爻、兌卦の三爻は陰爻で、退け合う関係なので、震卦と兌卦の力学関係は遠心力が働くのである。他に、東北の艮卦と西南の坤卦、東南の巽卦と西北の乾卦の間の力学関係も遠心力が働くのである。

ということは、後天八卦の四組八卦は、南北向の坎卦と離卦だけは引き合う力が働くのに対して、其の他の六つの方向の六つの卦は、皆遠心力が働くのである。物理学で考えると、後天八卦の動きは、南北向(子午線)を軸にして、まわっている球体運動のモデル図であり、これは地球の自転と一致しているのだ。また、南側の離卦で、易学の象は上で太陽である。北は坎水で、下で海を象徴する。人間は真ん中に居て、周りに山、雷、風、澤に囲まれて、まさか人間と自然を融合している「天人合一」の風景を描いたのである。

先天八卦と後天八卦は体と用の関係である。先天八卦は宇宙の生成と発展をモデルにし、八卦を用いて、互いの陰陽五行の作用関係により、宇宙の時空の変化の規律を表している。後天八卦は地球の自転をモデルにしている。これを用いて、宇宙の中の一つの個体として、運行しながら、時空の中で、宇宙(先天八卦)といかに共存共栄していく規律を見つけて、われわれ人類に伝わったのである。 また、この規律を通じて、人類に「天道に順応すれば栄える、天道に逆らえば滅びる」の真理を啓示した。

参考資料

1.「易経」

2.「完全破解易経密碼」(劉君祖、九州出版社、2012年)

3.「易経の奥秘」(曾仕強、陜西師範大学出版社、2009年)


[1]注:尸子(しし)、本名は尸佼(しこう)(紀元前390年~330年)。中国春秋戦国時代の諸子百家の中の雑家(ざっか)の代表的な人物である。著書は『尸子』20編、現存2巻。尸佼の宇宙論は重要な説として、中国古典哲学に大きな影響を与えた。

[2] 系辞伝:「易伝」を構成する一部で、上伝と下伝に分けて全部で十二章で構成し、易経の基本理念、卦と爻の創作訳と易占に対する解釈である。

[3]彖伝:「易伝」を構成する一部で、上下に分けて、易経の六十四卦の卦名、卦義、卦象と卦辞を解釈である。

[4] 易伝:孔子とその弟子達は、「易経」に対する研究と解説する論文集である。「易経」研究に最も重要な参考書である。内容は、「彖伝」上下、「象伝」上下、「文言伝」、「系辞伝」上下、「説卦伝」、「序卦伝」、「雑卦伝」全部で7種10篇で構成されている。

© 2023易海陽光

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